伝統の藍色を染め続ける職人の手仕事

伝統の藍色を染め続ける
職人の手仕事

村田徳行 さん Noriyuki Murata

村田徳行 さん
Noriyuki Murata

村田徳行 さん Noriyuki Murata

藍染工房「壺草苑」工房長

藍染工房「壺草苑」工房長。東京都青梅市で大正8年から続く村田染工株式会社を営む家に生まれる。青梅嶋(青梅縞)に感銘を受け、徳島で修行後、平成元年に同会社の一部門として工房を開苑。その後30年余、伝統的な藍染を作り続けている。

東京・青梅市に、国内外で高い評価を集める藍染工房があります。その工房の名は、「壺草苑(こそうえん)」。平成元年の開苑以来、天然の素材と向き合いながら、江戸時代の技法で藍染を行なっています。

藍染めに魅せられ、この道30年以上。工房長の村田徳行さんに、染め上げるまでの過程や藍染の魅力についてお聞きしました。

伝統的でありながら、今の暮らしにフィットする藍染めを作る

――村田さんが感じる藍染の魅力はなんでしょうか?

            

伝統的でありながら、今の暮らしにフィットする藍染めを作る

うちが今やっている藍染技法は400年前に確立された技法なので、すべて自然由来のものを使っているんですね。醗酵させた原料を使って、微生物が働いて、この青色が生まれる。ベタッとならずに深みがあるんです。お日様にあたったときの色目も綺麗だな、といつも思います。

            

――壺草苑(こそうえん)では、靴下やストール、ニットキャップにワンピースなど、様々なものを染めていらっしゃいます。藍染というと着物の印象がありますが、手がけるアイテムのラインナップには、どのような想いがありますか?

うちも昔は、帯や反物など和装アイテムを中心に作っていたんですが、「この藍の美しさをなんとか若い人に届けよう」と考えて、10年ほど前から今のようなラインナップにしていきました。素材やテキスタイルを国内のものにこだわったりと、どれだけいいものに仕上げるかということを意識するようにしてからお客さんの反応も変わってきましたね。技法に関してはいかに江戸時代のそれに近づけるかを目指しているのですが、アイテムは若い人たちの感覚にも響くものを目指して、挑戦を続けています。

            

最先端の評価も受ける壺草苑の藍染

            

――無印良品でトークイベントをおこなったり、海外での個展開催、国内外を問わず数々の賞を受けるなど、壺草苑の藍染は伝統的でありながら最先端での評価も受けてらっしゃいますね。

ありがたいことに、無印良品さんや海外のバイヤーさんたちが自分たちを見つけてくださり、声をかけていただくような機会に恵まれてきました。2012年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のミュージアムショップでストールが販売されるようになりました。※2019年1月時点での販売はありません

うちは会社として約100年、工房としては約30年の節目。海外も含めて、さらに多くの人たちに藍染めを知ってもらいたいと感じています。

工房のはじまりは、青梅が誇った藍色を復活させたいという想い

――工房のある青梅市は、もともと藍染めの素地がある場所だったのでしょうか?

工房のはじまりは、青梅が誇った藍色を復活させたいという想い

この青梅市という土地は、今でこそ減ってしまいましたが、昔は向こう百軒が機屋(はたや)というほど織物が栄えた街で、その原風景は江戸時代までさかのぼります。

江戸幕府が安定期を迎えて、「粋」という言葉が生まれるほどオシャレや文化が花開いた時期のことです。この辺りで「青梅縞(おうめじま)」という反物が作られて、これを浅草周辺に持って行ったら爆発的に売れたんですね。弥次さん喜多さんの物語にも出てくるし、歌川広重の版画でも、遊女や歌舞伎役者が着ているものは青梅縞を参考にして描かれたとも言われています。おしゃれ着として大人気だったんです。だから現在でも織物などこの青梅市は、職人やモノづくりの歴史がある土地といえます。

――そんな青梅市で、壺草苑を立ち上げた経緯をお聞かせください。

工房の母体は村田染工という会社で、大正八年の創業なんです。うちはずっと下請けで染めをしていたんですが、ある時、私の兄でもある社長が青梅縞を再現しようと考えたんですね。それで私が徳島まで修行に出て、伝統的な藍染めの技法「天然藍灰汁醗酵建て(てんねんあいあくはっこうだて)」を学びました。それが、私たちの出発点でしたね。

――村田さんたちが現在も行っている「天然藍灰汁醗酵建て」という技法は、どんなものでしょうか?

世間では藍染と言っても化学染料を使っているものが多いのですが、自然界にある原料だけを用いるのがこの技法の特色です。必要な材料は、日本酒・ふすま(小麦の外皮)・石灰、灰汁そして藍の葉を醗酵させた「すくも」だけです。これらを合わせて、温度管理をして染めるための液を作ります。微生物が働くので、ワインや納豆づくりに通じるものがありますね。自然の恩恵で作るものですから、家庭排水よりも地球にとって害がなくて、土に還してもむしろ土を活性化させるような役割を果たすものなんですよ。

「天然藍灰汁醗酵建て」という技法

すべては「手」作業。一枚一枚染めています

――具体的な染めの工程を教えてください。

液に染めたいものを入れて、揉んだり、泳がせたり、動かす。その後絞って、空気に触れさせ酸化させます。このやり方は原則的にはすべて同じですが、素材や形によって全然変わってくるんです。液に漬ける時間も違うし、動かし方も違う。ルールがあるようで、まったくないんです。

すべては「手」作業。一枚一枚染めています

――作業はすべて素手で行っているんですか?

染める布も多様化してきたので、たとえばコートなどの分厚い生地を染める場合は手袋が欠かせません。染める工程でより力が必要で、素手だと手を痛めてしまうし、指がふやけるとグリップが効かなくなりますから。手袋は作業によって使い分けていて、熱いお湯を使う場面では分厚い手袋、染めたい生地が大きい場合は甕(かめ)の奥まで手を入れるので、長さのあるものを使っています。あとは、染色液は傷があったりすると染みるんですね。それを防止するために手袋を着用することもあります。

――最後に、藍染めの未来、そして壺草苑のこれからについてお聞かせください。

伝統的な天然の藍染は美しいだけでなく、昔からの生活の知恵でもあるんです。生地が丈夫になるし、虫よけになったりもする。環境を壊さないから、持続可能な染色方法でもある。最先端のものもすごいけれど、そういう昔からの工夫の良さやすごさを伝えていくのも僕らの仕事のひとつなのかな、と。

藍染めの未来、そして壺草苑のこれから

いまここで働いている若者たちは、それぞれのきっかけで藍染の魅力を発見して、工房にやってきました。うちがこだわっている伝統的な製法での藍染は大変に手間もかかるし、難しいものですが、彼ら若い世代にはこの文化を継承してもらい、長く続けていってほしいと思っています。

(2018年12月19日取材)

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