銭湯文化を継承し、
刷新する新世代の番頭
中橋悠祐 さん
Yusuke Nakahashi
喜楽湯番頭。株式会社東京銭湯が運営するウェブメディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」初期メンバー。2016年から喜楽湯の運営を引き継ぎ、銭湯業界の活性化を目的とした各種イベントや日々の銭湯運営を行っている。
埼玉県川口市の銭湯「喜楽湯」の番頭・運営として店を切り盛りし、銭湯に特化したウェブメディア「東京銭湯 - TOKYO SENTO - 」にも参画する中橋悠祐さん。
銭湯での音楽イベントを企画するなど、斬新なアイデアで銭湯文化の活性化にチャレンジしている中橋さんに、そのユニークな活動や銭湯の魅力についてお聞きしました。
銭湯の新しいカタチ
――中橋さんたちが運営されている喜楽湯はどんな銭湯なのでしょうか?
喜楽湯は、1950年頃から続いている銭湯です。井戸水を使い、毎日薪でお湯を沸かしています。僕らが所属する株式会社東京銭湯が、前オーナーから引き継いで運営するようになったのは2016年から。引き継いだ当初は、今も一緒に喜楽湯を運営している湊研雄くんと僕の2人でお店を切り盛りしていましたが、現在はずいぶんスタッフが増えて、住み込みの番頭を中心にアルバイトの子たちが10人くらい関わっています。僕を含め20代から30代の若いスタッフだけで運営していて、これは銭湯としては全国的にも珍しいと思います。
――喜楽湯では日々の銭湯運営だけでなく、さまざまなイベントも開催されていますね。
〈喜楽湯での寄席イベント「ENGEIゆでたまご」の模様〉
喜楽湯を会場にして、お笑いライブや寄席、アコースティックの弾き語りライブ、ポエトリー・リーディング(詩の朗読によるパフォーマンス)の大会といったイベントを企画してきました。それから、フリーマーケットなど近所の子供たちやお母さんが楽しめる催しも行ったりしています。
――喜楽湯を引き継いだ当初はご苦労もあったのではないでしょうか。
僕は音楽活動もやっているんですが、銭湯の仕事は本当に忙しいので、両立は正直なところ、とても難しい。とりわけ、引き継いだ当初に2人だけで運営していたのは無茶でしたね(笑)。
そもそも銭湯は、昔から家族で経営しているところが多く、身内だけで延々と働き続けたりしてしまいがちな業界なんです。でも、そんな働き方は今の時代に見合いません。
僕たちは会社として銭湯を運営し、スタッフがきちんと休むことができる体制を作ってきました。銭湯という文化を残していくためにも、若い人が働きたいと思える労働環境を作ることはとても大切だと考えています。
――中橋さんたち若い世代の方々が喜楽湯を運営するようになってから、どのような変化がありましたか?
地元の20代~30代のお客さんは本当に増えましたね。先にお話したようなイベントを開催したり、WebサイトやSNSを通じて積極的に情報を発信してきたことなんかが響いたのかなと感じています。若いお客さんを獲得することは銭湯業界全体の命題。今は50代以上の方と、40代以下の方は半々くらいになりました。
銭湯は年々減少しつつあります。ですが、発信を怠らず、いまの時代に見合った価値を提供するよう努力すれば、老若男女を問わずお客さんは来てくれるんだと実感しています。
銭湯という「場」の変わらぬ魅力
――中橋さんが伝えたい、銭湯の魅力はどんなものでしょうか。
僕が育った京都は銭湯の多い土地で、親父に連れられて小さい頃からよく行っていました。銭湯が身近にあるのが普通のことだったんです。番台にいる人や、風呂に入っている人たち。牛乳瓶とか扇風機とか、待合室も湯船も脱衣所も、すべてひっくるめた空気感が好きだった。それに、やっぱり大きなお風呂って気持ちいいですよね。
そんな、一言では言い表せない銭湯の魅力を伝えたくて、ウェブメディア「東京銭湯 -TOKYO SENTO-」の立ち上げから携わり、ついには番頭にまでなってしまいました(笑)。
――新しい施策に取り組まれる一方で、変えずに守っていこうとされていることはありますか?
いわゆる銭湯の「昭和レトロ」な要素を残していこうとは特に思っていませんし、新しくてきれいな銭湯も魅力的ですよね。ではどういうところを守っていくかというと――やっぱり、店に番頭が立って「こんにちは」「おやすみなさい」ときちんと声を掛けたりすることが大事なんじゃないでしょうか。お客さんと過剰にコミュニケーションを取るわけではありませんが、きちんと挨拶をすることで居心地の良い場を作っていきたい。番頭がAIやロボットに置き換わっているのは、やはり違うかなと(笑)。昔ながらの銭湯の空気感や温かみは受け継いでいきたいですね。
例えば喜楽湯のように薪で湯をわかすのって、手間も人件費も結構かかるんです。でもお客さんの中には「薪で沸かしたお湯はやわらかい」って喜んでくれる人もいらっしゃる。そういう、愛されている部分を大切にしたいと思っています。
日々の仕事に、気を引き締めて臨む
――銭湯での一日の仕事を教えてください。
基本的にはお昼の12時が始業です。まずは窯から前日の灰をかき出し、薪の木材に残っていた釘などの鉄くずを分別のため、磁石で選り分ける作業を行います。そして窯に火をつけ、営業開始の15時まで沸かし込み、お湯を作ります。この工程では不完全燃焼を起こさないよう、煙突から上がる煙の色を見ながら、薪の入れ具合で火加減を調整することが大事。沸かしている間に脱衣所を清掃します。
営業中は接客や排水回りの掃除をして、23時に閉店します。暖簾をしまったあとは浴室の掃除を1時間ほど。洗い場の床など広い部分はポリッシャーで、椅子や風呂桶など細かなところは手作業でしっかり洗います。最後はスタッフ同士でご飯を食べたりして一日が終了です。
――なかでも大変な作業はありますか?
やっぱり薪を扱う作業でしょうか。うちは廃材を利用しているので、大きいものを移動させたり、火にくべられる状態にするために切ったりと、なかなか重労働なんです。手をケガしないよう、スタッフは全員手袋をして作業しています。軍手だと目が粗くて木のささくれや釘などが刺さりそうになるのですが、愛用している「組立グリップ」は目が細かいから安心感がありますね。手のひらの部分がコーティングされているので、薪もしっかり持つことができます。
仕事のためにちゃんとした道具を選ぶことは大事ですよね。「組立グリップ」はフィット感が良くて気に入っています。作業効率が上がるのはもちろんですが、何よりも「さあやるぞ!」とやる気が出る着け心地。銭湯の仕事は地味な作業も多くて本当に大変なんですけれど、だからこそ、そうやって気を引き締めて臨みたいんです。
(2019年6月21日取材)