子供たちに残したい里山で、自然に寄り添って育てる牛とチーズ

子供たちに残したい里山で、
自然に寄り添って育てる牛とチーズ

五十川充博 さん Mitsuhiro Ikagawa

五十川充博 さん
Mitsuhiro Ikagawa

五十川充博 さん Mitsuhiro Ikagawa

チーズ職人。千葉県いすみ市で義両親から引き継いだチーズ工房IKAGAWAを経営。放牧しているジャージー牛のミルクからチーズを作って販売している。

日本酪農発祥の地とされる千葉県。太平洋に面した外房地域に位置するいすみ市には小規模のチーズ工房が点在しています。2007年にオープンしたチーズ工房IKAGAWAもそのひとつ。牛、犬、猫、ヤギにニワトリ、そして奥様と4人のお子さんたちと賑やかに暮らす五十川さんの工房を訪ねて、自然の中で行うチーズ作りとそのこだわりについて伺いました。

ジャージーミルク100%が生み出す濃厚な風味

――チーズ工房IKAGAWAのチーズについて教えてください。

ジャージーミルク100%が生み出す濃厚な風味

ムチュリというスイスの田舎の熟成チーズを作っています。あまり輸出されることもないため、日本ではなかなか見かけないですね。亡くなったオヤジさん(先代)がスイスで習ってきて、この工房が始まったときから作っています。

ムチュリ以外にはカチョカヴァッロや、熟成させないクリームチーズやモッツァレラなども手作りしています。

――五十川さんが作るチーズの特徴はどんなところにありますか?

ジャージー牛のミルクは脂肪分が多いので、独特のバターのような味わいがあります。日本のチーズはほとんどがホルスタインのミルクで作っていて、ジャージー牛のミルクでチーズを作っている人は少ないんですよ。

飼育しているジャージー牛

また、ここで暮らす牛たちは主にうちの牧草地で育てた草を食べています。季節ごとに牛が食べる牧草によってミルクの風味が変わるので、伴ってチーズの味や色が変化するのもうちならではです。

――チーズのおすすめの食べ方はありますか?

家族で食べるときは切ってそのままか、パンにのせてオーブンで焼いて食べます。ムチュリはそのまま食べると酸味も感じられます。酸味を含めた風味も魅力ですが、火を入れるとまろやかになります。ラクレットチーズと同じように温めてトロッとさせて、塩茹でしたジャガイモにかけて食べるのもおすすめです。

あとは以前、知り合いのシェフがうちのモッツァレラを使って、桃とモッツァレラのサラダを作ってくれたことがありました。オイルやレモンピールなどを和えるのが基本のレシピのようですが、うちの庭に生えていたハーブもその場で加えていました。あれはおいしかった!

房総半島で受け継いだ義父の思いとスイスのチーズ作り

――チーズ作りを始められた経緯について教えてください。

農業系のベンチャー企業で働いていたオヤジさんが、退職したときに元上司からジャージー牛を2頭譲り受けました。その牛たちを飼う場所を求めて、いすみ市のこの場所に移住したんです。もともと仕事でスイスに住んでいた時期があったのですが、牛を活用してチーズを作ろう、工房を開こうと決意したのちに、改めてスイスにチーズ作りを学びに行ったようです。やがてオヤジさんの娘だった妻と僕が出会って、結婚。オヤジさんが築いた工房を継ぐことになりました。

オヤジさんにかけてもらった「小さい牧場が村にひとつあれば、荒れた農地が使えるようになったり、景観が保たれたりする。家畜がいるというのはすごくいいことだ」という言葉は今でもずっと心に残っています。

チーズ作りを始めた経緯

――工房を継いでから新たにチャレンジしたことはありますか?

この土地ならではの新しいチーズ作りに挑戦しています。「リフ」と呼んでいますが、海外のどこかにあるチーズを、環境を再現したり菌を取り寄せたりして作るのではなく、この土地の菌と気候が作るオリジナルのチーズとして育てていこうと思っています。

最近はさらにおいしいチーズを求めて、ミルクを固形化する際に使うレンネットという酵素を、成分が今までよりも自然に近いものに変えてみました。あとは庭でヤギも飼い始めて、草刈り要員としてだけではなく、将来的にヤギのミルクでチーズを作ることも考えています。まだ色々と試行錯誤している最中で、苦労もありますが面白いですね。

自然との対話のなかで生まれる「理想のチーズ作り」とは

――牛の世話、チーズ作りと様々な作業でお忙しいですね。朝は早いですか?

事務仕事を済ませてから、7~8時ぐらいに牛の世話を始めます。搾乳は朝と夕方の2回。毎日同じ時間に行きます。その後チーズ作りをして、牧草の管理、そしてまた牛の世話をします。

――1日のうち、チーズ作りに充てる時間はどれくらいですか?

自然との対話のなかで生まれる「理想のチーズ作り」とは

だいたい6時間ぐらいでしょうか。搾乳したミルクの殺菌から始めて、乳酸菌とレンネットを順番に入れます。しばらくすると固まるのでカットします。そうすると切り口からホエー(乳清)が滲み出て、残りがチーズです。クリームチーズならそのままパックしますし、モッツァレラならそのあと練る作業があります。ムチュリは熟成庫の中で時間をかけて寝かせますが、その間にも反転(ひっくり返す)や表面を磨く作業が必要になります。

チーズの表面を磨く作業

――チーズ作りに手袋はどんな役目を果たしていますか?

お客さんの口に入るものですから、衛生的に作業するために手袋は欠かせません。チーズ作りや搾乳で使うのはニトリルゴム製の使いきりタイプです。牛や牧草の手入れをするときにも、ケガをしないように作業用の手袋をしています。少しの手の傷でも食中毒の原因につながってしまうので。

お客さんの健康を損ねないことはもちろん、事故によってチーズ作りができなくなっては困ります。日本産チーズのイメージまで悪くなりかねないため、細心の注意を払っています。

手袋がチーズ作りに果たす役割

チーズ作りも牛のことも、失敗するのは人間本位になりすぎているときです。主体は人間ではなく自然で、僕がやるのは手伝いだけだと気付いてからは、仕事の仕方も変わってきました。牧草が豊かで牛も健康、良いミルク・美味しいチーズができて人間も嬉しい。自分の中の理想に少しずつですが近づいています。その理想に説得力を持たせるためにも、チーズ作りには手を抜けません。

最近は工房のSNS を見て遠方から来てくれるお客さんも増えました。チーズを買いに来た人にはこの場所でリフレッシュして帰ってもらいたいですし、子どもたちが大きくなったときには、この場所を胸を張って残せるものにしたいと思っています。

(2019年12月13日取材)

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